華麗な足技と力強い攻撃力で観客を魅了する、SHOOT BOXING(以下SB)で大注目の新鋭がいる。その名も、モンゴル出身のチングン新小岩ジム選手(以下チングン選手)。テコンドー大会でモンゴルの頂点に立った実績をひっさげ、SBで無敗の波に乗る。そんなチングン選手の素顔と私生活から見えてきたのは、異国の地・日本で、死に物狂いで未来をつかもうとする勇猛果敢な姿だった。
なぜ留学先に日本を選んだのだろう?
子供のときから日本で活躍する横綱・朝青龍が大好きでした。僕が住んでいた田舎の方は家にテレビがないと、相撲が始まる15時になるとテレビがある家に集まって、みんなで見ていました。朝青龍はとにかくすごい人気でした。
日本は先進国で学べることが多いと思って来日しました。今は日本語学校に通っていて、いずれ日本の大学に行こうと思っています。経営を学んで、モンゴルで起業を考えています。
日本にきて一年くらいですが、あまり遊びには行っていません。勉強と仕事と、練習で忙しいので…。僕は新聞配達をしているので、朝2時に起きて朝刊配達をして学校へ行って、学校が終わったら夕刊を配って、ジムで練習しています。練習が終わったら家に帰って寝る生活です。
日本に慣れたかって言われたら、わかりません。たぶん慣れていないです(笑)。学校は、あまり楽しくはないですね。忙しいので他の生徒と一緒に遊ぶ時間もなく、授業は寝てしまいます(笑)。モンゴルの家族からは格闘技よりも学業は大丈夫なのか、って言われています(笑)。
SBとの出会いは?
子供のときからテコンドーや柔道などをやっていました(2008年〜2012年モンゴル・テコンドー王者の実績がある)。
アマラ忍(日本で活躍していたモンゴル出身元キックボクシング選手)のキックボクシングジム(モンゴル)で2014年の頃、キックボクシングの練習に参加して、子供たちを教えたりもしていました。
来日してから何もスポーツはしていなかったのですが、日本で活躍していた忍選手のことを考えたら、何もしていない自分を情けなく思って、近くにジムを探したときにシーザージム新小岩を見つけました。SBは柔道もテコンドーも活かせるので、すごく気に入っています。
チングン選手から見た日本とは?
日本に来て驚いたことは、高級車がたくさん走っていることです。ランボルギーニとか、スポーツタイプの車とか、すごく驚きました。モンゴルでは見たこともない車ばかりです。
僕にとっての日本人は、「ジムの人たち」になるんですが、とにかく優しくって、人思いで、困ったことがあると助けてくれる人ばかりです。モンゴルの人と温かいところが、似ていると思います。日本人と比べて、僕は心が強いとか、そういうことは思ったことはありませんね。自分は練習したことを試合ですべて出すだけ。応援してくれる人のためにも頑張らなきゃっと思っています。
普段の食事は家で鶏を焼いて焼鳥とか、一番簡単なチャ−ハンを作ったりします。
モンゴルは肉が安いので、1日3回は羊肉を食べるくらい肉が大好きです。日本の羊肉の味と、ちょっと違うと思います。モンゴルの方が美味しいと思っているので、日本ではあんまり羊肉は食べません。日本では鶏肉をよく食べます。
モンゴルにいる家族とは、よく電話をしています。今はFacebookとかがありますから、ホームシックになることはありません。家族は父母と、サーカスのパフォーマーで今トルコにいる妹、僕は長男です。だから僕がしっかりしないといけないんです。
(トレーナー大江慎さん談)
チングンは仕送りをしているんだよ。新聞配達の給料9万円うち6万円をモンゴルに送っている。前は唯一の休みの日曜日に、引越しのバイトもしていたし。お父さんが今病気で、モンゴルには日本みたいな保険制度がないから、高額な薬代がかかる。だからチングンが稼いでいる。以前は手元に残った3万円の生活費の中から、ジムに通うために1万円を払っていたんだよ。今はプロになったから会費はかからなくなったけど……。
プロになってからもすごい。計量日には夕刊配ってから急いで会場に来て計量パスするし、試合のときも夕刊配ってから試合直前に会場入りして試合して、あの激しい戦いをするんだから…。試合だからって仕事を休むことはしない。本当にすごいよ、苦学生。
目まぐるしい毎日を送るチングン選手の原動力とは?
何もしないよりは、何かやっていた方がストレスもたまらないし、この生活が大変だと思ったことはありません。ちょっとつらいことがあっても、そのときを我慢すれば、僕にはできると思っています。
一番の原動力は親です。今は父が病気で仕事ができないので、家族も僕を頼りにしています。今を頑張ることで将来はお金を稼げるようになる。そうすれば、今より両親に楽をさせてあげられます。だからこそ、頑張りたいんです。
楽しみなことは、7月にモンゴルから彼女が来るんです。5月にモンゴルの大学を卒業して、日本語学校に通うためです。彼女も早く日本に来たいみたいです。会えることが嬉しいですし、今から楽しみです。
今後のSBでの目標とは?
ん〜、鈴木博昭選手(SB日本スーパーライト級王者)と闘いたいです。彼と闘ったら面白い試合になると思います。今はなかなか練習時間がとれないので、もっと練習を積んで試合をしたいです。
彼と試合をするなら階級は下げることになりますが、まったく問題はありません。減量はもう慣れました。将来は、SBでチャンピオンになって、RIZIN(総合格闘技団体)とかにも出てみたい。格闘技以外では、モンゴルに帰って起業したり、自分にできることは全力で頑張っていきたいです。
恥ずかしそうに照れくさそうにインタビューに答えるチングン選手。決して驕りたかぶることもなく、謙虚な姿勢そのものであるが、まっすぐな黒い眼からは揺らぐことのない「野心」と「自信」がみなぎる。猛虎襲来の余波は、SBのみならず格闘技界を震撼させそうな、そんな気配を漂わす……。
聞き手 : 高橋藍
チングン新小岩ジム
SB日本スーパーウェルター級
1996年7月12日生まれ モンゴル出身 シーザージム新小岩所属 SB日本スーパーウェルター級 身長175センチ/体重67.5kg 戦績4戦4勝(2KO)