シュートボクシング
HUMAN OF SB

唯一、選手とともにリングにあがるレフェリー。的確に判断を下し、公平な試合運びを進行することこそが、使命である。格闘技においては、その判断を誤ることは誤審のみならず、選手生命にも関わってくる大きな責務を負っていると言える。
シュートボクシングは(以下SB)、ルールに則って行われる健全なスポーツである。そんなレフェリーから見たリング上の世界、心境などを、初代SBカーディナル級王座を獲得した経歴を持つ、SB審判部長・大村勝己氏に話を聞いた。

試合を“裁く”ことに対する心境とは?

 

とにかく、すっごい神経を使います。自分の試合より緊張するし、自分が闘っていた方が気が楽(笑)。レフェリーは判断ひとつで試合の流れが変わってしまうし、選手にとって大きな一戦。その重圧はやっぱりあります。

だからもう、全試合が無事に終わると緊張から解き放たれて、ぐったりするほど。翌朝は頭が疲れているというか、体も重いし、もう精神的にどっと疲れがきますね。試合のときは、そのくらい集中力を使っているんです。

試合によって緊張の度合いが変わることはありません。タイトルマッチであろうと、デビュー戦であろうと、緊迫する試合には他ならないわけで。

試合が近づいてくると当日に向けて体調を整えたり、お酒は控えたり、体調管理にも気を使っています。前日は早めに就寝したりとか。だって、お酒残っていてベロンベロンなレフェリーなんて嫌ですしね(笑)。瞬時の判断だって狂ってしまいますよ。

レフェリーの役割とリングでの存在とは?

 

シーザー武志会長(SB創始者)に、「レフェリーは黒子。目立っちゃいけないけれど、試合を作るのはレフェリーだよ。ジャッジするときは、会場の空気まで読んで判断を下さなくてはいけない」と聞かされたことがありました。

確かにいくら良い試合でも、ジャッジの判断がもたついていたら、お客さんにストレスを与えてしまうし、試合の流れも変えてしまう。レフェリーの裁きによっては、すべて台無しになる可能性すらあるわけです。

リング上では常に全体を見るようにしています。臨機応変に動くことが必要だし、たとえばパンチが交錯する接近戦のときは、近づいて止めるタイミングを見失わないようにしたり。ひとつの動向も見逃すわけにはいかない。

リングの立ち位置は、試合開始前に確認しています。リング下のジャッジ3人の位置、あとはテレビカメラの位置。ジャッジからきちんと試合が見えるようにと、カメラは選手を映したいわけで選手を死角にしちゃまずいから。レフィリーのお尻を映したいわけじゃないからね(笑)。試合が始まったら、全てに気を使えるわけじゃないけれど、邪魔にならないよう、頭には入れて動いています。

審判団が集まるミーティングで確認している事項とは?

 

次の大会に向けて出場相手の情報確認と留意点、前回の大会で採点や判断、ジャッジに対して指摘があった場合などは、大会VTRを見ながら改善点も含めて話しています。SB協会と審判団の意見を合わせて確認しながら。

我々はルールにのっとり公平に判断をしているんですが、ときどき聞かれるのが、SBは身内に贔屓目に見ているという意見。しかし、常にレフェリーミーティングで判断基準の統一性をはかり、ルールブックにも書かれている通りのSBルールに法って採点、判断をしています。

そこに加え、レフェリーは試合の「流れ」を見ながら判断しています。

たとえば、「手数の多さ」もポイントになりますが、腰が引けている状態でコツン、コツンとパンチを当てているより、しっかり有効打を打って試合の流れを作っていたら、「手数」ではなく後者への判定が優位になる。アウトボクシングのスタイルもあるので、その選手のスタイルの中で「相手を倒しにいく有効打」を当てているのか、そこのポイントを見ています。だから、逃げながら手数を出していることを「有効打」と主張されても、それは採点には響かない。

僕も以前は周囲の声を気にしていた時期もありました。後になって「あのとき、こうすれば良かったのかな…」と考えたり。しかし、考え始めると次の試合の見方が変わってきてしまう。判断基準がぶれてきてしまう。だから今は、自分の下した判断には過剰に省みることはしません。

 

選手からレフェリーになったきっかけとは?

 

シーザー武志会長(SB創設者)は、SB競技をやっていた人にレフェリーなどの審判員を務めて欲しいって思っているんですね。理由は、SBには立ち技の打撃に加え「投げ・関節技・絞め技」があり、他の競技とは違う間合いがあるから。関節技にしても仕掛けているのか、休んでいるのか、そこを見極める目を持つ者に務めてほしい訳です。

きっかけは、僕が引退してからシーザー武志会長から「復帰しろ!
復帰しろ!」と度々言われることがありまして、その度に「無理ですよ、会長」と答えていたんです。ある日、会長からまた言われたので「じゃあ、レフェリーなら」と思わず答えてしまった。そうしたら会長が「お!
それいいね!」となり、そのままトントン拍子でレフェリーになってました(笑)。

でもよかったことは、僕が務めたことで、SBを引退した選手たちが「自分もやりたい」って声あげてくれて、OBの平直行くん、津山圭介(初代SBライトヘビー級王者)とかも今では一緒に審判しているので、そういうのはよかったかな、って思っていますね。

レフェリーを務めながら、自身も選手として闘ってきたからこそ見えてしまう視点についても語ってくれた。

 

選手の気持ちをわかってしまう部分があるんですね。だから、追い込まれ、やられているように見えても、その選手の目を見てしまう。打ち込まれ下を向いてしまったり、「ダメだ」って目をしていたら止めるけど、「まだ何かを狙っている目」、「あきらめていない目」をしていたら、「何かやるかもしれない」と思っちゃう。

それは、緒形健一(初代SBスーパーウェルター級王者)が悪いのよ(笑)。思いっきりダウンで倒れても、立ち上がって逆転するような試合をする。そういうことがあるから、ダウンした選手が追い込まれてても、「でも、こいつには一発があるから…」ってなると、止めるタイミングが難しい。本当、緒形があんな闘いするから悪い(笑)。
僕も選手のときは「最後までやらせてほしい!」って思っていたから。だから、そこの判断は難しい。
でも、そうは言っても第一は「選手の安全」と「公平な判断」、そこに尽きます。

今のSB選手に求めているものとは?

 

最近、キックボクシング興行「KNOCK OUT」を観に行ったら、どの試合も1〜5Rまで飽きることがなかったんです。

「KNOCK OUT」の事前ルール説明で、「コンセプト(「KNOCK OUT」)通りに、『倒しにいく攻撃』でない場合、すぐに止める」と審判団が話をしていました。「組んでからの膝攻撃もありのルールだけど、膝を当てているだけでなく、相手に突き刺す攻撃でないとすぐ外すから」と。それはタイ人選手にも徹底していましたね。試合の意義をルール説明で、あえて強調していたことは、レフェリーとしてすごく参考になりました。

「KNOCK OUT」が面白い理由を考えていたら、「みんなチャンピオンクラスだから当然か…」とも思ったんです。でも同時に、こんなにキャリアのある選手達が、こんなにおもしろい試合をしているのなら、若い子達はもっとガムシャラに闘っていかないとおもしろくない。倒しにいかなきゃ。

今のSB選手に求めるものは、技術じゃなくても「倒しにいこうとする姿勢」をもっともっと見せてほしいです。「今の子たちが出来ない」って言うのは違うと思うんです。「勝たないと次の試合に使ってもらえない」ではなくって、「倒しあいをしないと試合に呼ばれない」くらいの思いを見せてほしい。現役SB選手でその素質を持っている選手もいるんだから、それを出していってほしいですね。

次回大会:4月8日(土)後楽園大会『SHOOT BOXING 2017 act.2』
https://shootboxing.org/tournament_schedule/12521

聞き手 : 高橋藍

大村勝己(おおむら かつみ)

SB審判部長 シーザージム新小岩 会長

福岡県嘉麻市出身 元初代SBカーディナル級王者 SB審判部長 シーザージム新小岩 会長





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