観客を熱狂させる闘いの背景には、選手、大会を支える人々の存在がある。その一人が、SBの協賛企業であるカリカチュア・ジャパンのKage氏だ。
イタリア語のカリカーレ(=誇張する)を語源とするイラストレーション、アートのスタイル“カリカチュア”の第一人者である氏に、シーザー会長とともに“闘い”と“アート”について語ってもらった。
Kage 会長、いつも公私ともども、大変お世話になっております!(笑)。
シーザー こちらこそ。Kageさんは僕のカラオケの先生だからね。
Kage 会長、勘弁してください(笑)。
シーザー シュートボクシングを芸術家の方が協賛してくださっているというのは意外に感じる人もいると思うんですが、Kageさんはもともとレスリングをやってたんですよね。
Kage 私は子供の頃、とても体が弱かったこともあって、ずっと入退院を繰り返していました。病床に伏していた私にとって格闘家は憧れであり、格闘技雑誌は教科書でした。ですからこうしてシュートボクシングと出会えたことに、心から感謝をしています。高校を卒業してアメリカに渡った時も、最初はプロレスラーになって日本に“逆輸入ファイター”として戻ってこようという思いがあったんです。UWFが好きで、会長が出場された有明コロシアムでの大会もお年玉をはたいて見に行きました。
シーザー それは嬉しいなぁ。やっぱり弱い人こそ、強い人間に憧れるのかもしれない。自分ができないことをやってくれるという部分でね。だからこそ、ファイターは美しく、カッコよくなければいけない。「俺でもできるんじゃないの?」っていうものではダメですよ。素人にはできない強さ、技術を持っているからこそ、ファンは「凄いな」となって見に来てくれる。Kageさん、ウチとの付き合いは緒形(健一。初代シュートボクシング日本スーパーウェルター級チャンピオン。S-Cup2006 優勝者)がきっかけだったんですよね?
Kage はい。地元浅草の先輩経営者からご紹介を頂きました。緒形さんと初めてお会いした時、シュートボクシングについて沢山お話をうかがいました。30年に渡り受け継がれている理念に心から惹かれましたし、その先にある夢に心の底から興奮したことを覚えています。
シーザー Kageさんはウチを応援をしてくれてるだけじゃなく、練習にも来てくれてるんですよね。
Kage はい。緒形さんが、いつも会長の教えをもとにお話しをされるんですが、そのお考えは我々の絵の世界にも通じる話ばかりで、大変共感しました。私もその本質に触れてみたい、それには汗を流さないといけない。そう思ったことがきっかけでジムに通わせてもらうようになったんですが、なかなか上達はしませんね……3分間って長いですね(笑)。ジムでは会長からもアドバイスをいただいたんですが、これが凄く分かりやすいんです。単に理論的なことだけでなく、実際にやって見せてくれたんですが、それが水の上を鳥が優雅に舞うようなステップで。そういうこと一つをとってみても、会長のお考えというのはもの凄く深いんだなと。
シーザー 今年から、シュートボクシングでは“アート・オブ・ファイティング・スポーツ”という言葉を打ち出していくんですが、それを最初に聞いてもらったのもKageさんでしたね。
Kage あの言葉の概念をうかがった時は、本当にシビれました。
シーザー 昔、岡本太郎さんが言ってたんですよ。「お前らの格闘技は『戦う芸術』だ」ってね。格闘技という言葉には危険な感じ、野蛮な感じがつきまとうでしょ。でもシュートボクシングはそうじゃない。健全なスポーツで、練習で身につけたしっかりとした技術がある。そして美しさがなければいけない。だからシュートボクシングでは、格闘技という言葉の代わりに“アート・オブ・ファイティング・スポーツ”を打ち出していきたいんですよ。
Kage 会長が以前おっしゃっていた「美と強さは比例する」というお言葉も、このお考えからきているんですよね。
シーザー 僕はね、プロの格闘家というものは、カッコよくなかったらいけないと思うんです。アンディ・サワーの怒涛の攻撃は本当にキレイです。頭がブレないでしょう。緒形は当初、腰が重くてキレが悪かったんです。でも、やり続けたらできるようになるんです。まぁ、当たるかどうかは別ですけど(笑)。
Kage 美学があって、技術があって、見る人の心を打つ感動がある。これはまさにアート、芸術だと思います。真剣勝負の競技の中で、こういうことを考えてらっしゃる方がいるということに、凄く感動しました。絵を描く人間も、基本的な技術をしっかり持っていないと形にならない。なんとなく描いたら素晴らしいものができた、なんていうことは絶対にないんです。時間をかけて身につけた技術が必要ですし、緻密な考えや試行錯誤の上に成り立っている。選手のみなさんが練習されている姿にも、同じものを感じます。もちろん、技術だけでは素晴らしい作品にはなりません。その上に自分の美学がある。加えて、一流の絵描きというのはしゃべりも上手なんです。「作品だけを見て何かを感じてくれ」ではなく、自分のこと、作品のことを説明する能力も高い。
シーザー 自分もシュートボクシングというものを作って、ずっと伝えてきましたね。試合をしていればお客さんが入るわけではないし、お客さんが入ればいいというわけでもない。伝えていくことが必要なんですよ。それに加えて、ファイターは体を張らなきゃいけない。「誰とでも闘いますよ」ということで、いろんな選手と闘ってきた。そうすることで「こんな凄いやつがいるのか」と伝わっていけばいいな、と。シュートボクシングを伝えるという部分に関しては、本当に命懸けでやってきましたね。選手は頑張ってるんだから、いろいろな形で競技というものをグレードアップしていかなければいけない。トランクスではなくロングスパッツにしたのも、選手をカッコよく見せるため。そのために布地からこだわって作りましたからね。Kageさんの会社はいろいろな所にお店がありますよね。今は何店舗くらいあるんですか?
Kage 現在は関東、関西、東海に、25店舗あります。絵でプロになって生きていくということは、格闘家ほどではないにしても、とても難しいんです。私はこの20年間、世界中を廻りながら、技術を研究してきました。そうした中で感じたことは、絵には価値があり、力があり、絵だから伝えられる魅力がある、ということです。現在、弊社は関東は浅草、関西は京都に学校を作り、プロとして生きていく上での基本的な考え方、描き方、伝え方を指導しています。その中から優秀な生徒を採用し、全国のお店で彼らの夢を叶えてもらおうと、事業活動を行なっております。
シーザー シュートボクシングの活動目的も、単に興行の成功を目指しているわけではなくて、シュートボクシングという競技を通じて、若い人たちを「人間教育」しながら育成していくことにあるんですよ。
Kage シュートボクシングと同じと言ったらおこがましいですが、カリカチュアも、知らない人にどう伝えるかという面ではもの凄く繊細にこだわっています。日本ではまだまだ知られていない、新しいジャンルですから。我々の一貫した思いは、絵を通して一人でも多くの方に感動していただきたいということ。そして、絵描きが絵で食べていける社会を作りたいということです。事業としての絵を成立させていきたい、と。とはいえ、売るためだけに絵を描いているわけではなく、表現したいことがあるから描いている。ですから、常に最新の技術を研究するという決まりが会社にはあります。年に何度も海外に行くのは、そのためです。シュートボクシングを見ていると、スパッツであったりラウンドガールのコスチュームであったり、徹底的に見せ方にこだわっているという部分にもの凄く共感します。それは記者会見でも同じで、選手のみなさんはスーツにネクタイ。私も影響を受けて、スーツを着るようにしています。アーティストというとジーパンでキャップを斜めに被って、というイメージがあるんですが、プロとして接客をする以上はきちんとした格好をしなければいけない、ということでユニフォームも定めました。
シーザー そこは大事ですね。やっぱりファイターであれアーティストであれ、世の中というものにキチッと向かい合わないといけないんですよ。自分がやっていることの価値を、自分で高めていかないと。自分から安っぽいものにすることはない。ラグビーの選手なんて素晴らしいじゃないですか。格闘技も、安っぽく見られてはいけないし、「どうせ乱暴者だろ」と思われるようではいけない。だから“アート・オブ・ファイティング・スポーツ”という言葉も大事になってくると思いますね。シュートボクシングの選手には、格闘技術よりも礼儀作法を厳しく指導しています。格闘技はどうしても誤解されるイメージがあるけど、すべてのシュートボクサーにはシュートボクサーだからこそ人格者であってほしいし、現役を終えた後もどこへ行っても恥ずかしくない、社会に貢献できる人になってもらいたいと思っています。
Kage 弊社もそれにならって「感謝の心」と「貢献の精神」を大切にしています。単に上手な絵が世の中に需要があるわけではありません。ただ、一生に一度の大切な記念日に何か思い出を形に残したい。大切な人へ感謝の心を伝える時に、世界でたった一つのプレゼントを届けたい。こうした需要は世の中に溢れていると思います。私たちは、自分の好きで得意な絵の技術を活かして、人の心を理解して、人に喜んで頂ける楽しい絵を多くの人たちに届けることが生業です。なくても困らない絵というものを、なくてはならないものとして買って頂くために、「感謝の心」と「貢献の精神」を持ったプロを1人でも多く社会に輩出したいと考えています。
シーザー この30年間、「もうダメか」という時が何度もありました。でもその時々に必ず協力してくれる人が現れたんです。だから、シュートボクシングに携わってくれたすべての人たちに感謝しなければいけない。選手に対しても、常に感謝の心を忘れてはいけないと言っています。
Kage 私がジムに通うようになって、選手のみなさんや協会関係者の方々と知り合って一番心が震えたのは、その「感謝の心」でした。シュートボクシングの心棒に触れた気がしました。カリカチュアは、その人の外面を誇張するものだと思われがちなのですが、大事なのは内面にある個性をよく見ることなんです。対面で描く場合は、座り方や仕草、話す内容から個性を感じていきます。内面が外面に現れるということもある。そういう意味でも、描く側の人間も気持ちの部分を大事にしていきたいと思っています。
聞き手 : シーザー武志
Kage
(カリカチュア・ジャパン株式会社 代表取締役/代表アーティスト)
東京都出身。幼少時代は病弱で入退院を繰り返すが、学生時代は格闘技に没頭し、病気を克服。高校卒業後、本格的に格闘家を志して渡米した際にカリカチュアと出会う。約6年の滞在生活を経て帰国するとカリカチュアジャパンを起業。幾度に渡る海外修行を重ね、2007年世界大会、2005年欧州大会など優勝歴多数。Newsweek誌が選ぶ『世界が尊敬する日本人100』に選出。